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名古屋地方裁判所 昭和50年(ワ)2758号 判決

原告

後藤貞基

被告

株式会社藤栄

ほか一名

主文

一  被告らは各自原告に対し、金四一〇万七五〇〇円及びこれに対する昭和四八年一二月四日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告その余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その二を原告、その余を被告らの負担とする。

四  本判決は、第一項につき仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自原告に対し、金六八四万四五三六円及びこれに対する昭和四八年一二月四日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和四八年一二月四日午後六時四五分頃

(二) 場所 名古屋市港区油屋町三丁目五番地

(三) 事故の態様 原告は、右場所の南北にのびる道路上を訴外山路誠吉の運転するサニートラツク(名古屋四一の二五八一号、以下被害車という)の助手席に同乗して北進中、右道路西側に交差する信号機の設置されていない丁字形交差点に西側から自動車(名古屋四四の四五六五号、以下加害車という)を運転して進入してきた被告瀬田は、右交差点にて停車して南北にのびる道路への進入の時期をみていたバス及びこれに後続停車中の車両をそれらの左側から追い越して被害車である右訴外人運転の車両の左側面に衝突して、原告に左記傷害を負わせた。

(四) 原告の受傷と治療経過

右脛骨、腓骨々折、顔面挫創

昭和四八年一二月四日から昭和四九年一月三〇日まで臨港病院に五八日間入院

昭和四九年一月三一日から同月六月一七日まで一三八日間通院(実治療日数二四日)

昭和四九年一〇月二三日後遺障害等級一二級七号の認定を受けた。

2  帰責事由

被告瀬田は前方及び左右に対する安全確認を怠つたのであるから、民法七〇九条により、また被告会社は加害車を自己のために運行の用に供していたから、それぞれ原告の被つた損害を賠償する義務がある。

3  損害の発生

(一) 逸失利益

原告は本件事故前から名古屋市中川区所在東海重量作業株式会社にクレーン車の運転者として勤務していた。しかして、原告は右運転者として極めて高度の技術と経験を有していたが、本件事故により右足をふん張つて力を加えることが従前のようにできなくなり、特に重量の大きいクレーン車等の扱いはほとんど不可能となつている。

原告は大型クレーンの運転者として、昭和四七年中に二六九万九七五一円、昭和四八年中に二七九万四二三三円の収入を得ていたもので、一か月当りの平均収入は二二万八九一五円であるところ、原告の前記後遺障害等級に照らして労働能力喪失率は一四パーセントと評価せられ、しかして、原告は前記症状固定時三二歳であり、向後一七年間は右運転者として技術水準を落すことなく稼働が可能であつたから、その間の得べかりし利益をホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると四六四万四五三六円となり、したがつて、原告は同額の得べかりし利益を失つた。

228,915×12×0.14×12.077=4,644,536円

(二) 慰籍料 一五八万円

入通院によるもの 七五万円

後遺症によるもの 八三万円

(三) 弁護士費用 六二万円

原告は、原告訴訟代理人との間に認容額の一割を基準にしてその報酬を支払うことを約しており、弁護士費用相当の損害額は六二万円が相当である。

4  よつて、原告は本件事故によつて被つた損害額合計金六八四万四五三六円及びこれに対する本件事故発生の日である昭和四八年一二月四日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1及び2の事実は認める。

2  同3の(一)の事実中、原告がその主張する会社にクレーンの運転者として勤務していたことは認めるが、その余は争う。原告は右運転者として十分稼働することができるものである。同(二)及び(三)の事実はいずれも知らない。

三  抗弁

原告は後遺障害に基づく自賠責保険金として金一〇四万円を受領ずみである。

四  抗弁に対する認否

右抗弁事実は認める。

第三証拠〔略〕

理由

一  原告主張の請求原因1及び2の事実については当事者間に争いがなく、右事実によれば、被告らは各自本件事故によつて原告が被つた損害を賠償する義務があるものといわなければならない。

二  そこで、原告の被つた損害につき検討する。

1  逸失利益について

原告が本件事故以前から東海重量作業株式会社(以下東海重量という)にクレーンの運転者として勤務していたことは当事者間に争いがなく、右事実に、成立に争いのない甲第一ないし第四号証、第一八号証、証人大石優、同国廣正喜、同藤倉朗雄の各証言、原告本人尋問の結果(第一、二回)を総合すると、次の事実が認められる。

原告は昭和一六年一〇月二九日生れであるが、昭和三五年頃起重機運転の免許を取得し、昭和四一年七月頃東海重量に入社してクレーンの運転に従事し、昭和四六年頃から同会社において主として移動式クレーンの内大型に属する最大吊上げ荷重八〇屯の機械式クレーンを運転し、右東海重量において高度のクレーン運転技術を有する数少ない運転者の一人として処遇され、本件事故前は一般のクレーンの運転者よりは高額の月額二二万八、九一五円程度の収入を得ていた。

しかるに、原告は本件事故によつて右脛骨、腓骨々折等の傷害を受けて昭和四八年一二月四日から昭和四九年六月一七日までの間入院及び通院を受け、同年一〇月二三日後遺障害等級一二級七号の認定を受け(右の事実については当事者間に争いがない)、右受傷の結果は比較的跛行がなくして歩行が可能であつて、一〇ないし二〇キログラム程度の圧迫運動が可能であるが、右の症状が固定したと認められる同年六月一七日頃の主訴または自覚症状としては軽度の歩行痛及び右脛部に圧迫感があつて、正座が困難であり、かつ右足に充分の力が入らない。

原告は本件受傷により昭和四九年三月三一日まで東海重量での勤務を休み、同年七月頃から東海重量に出勤して、先ず小型に属する吊上げ荷重一〇屯のクレーン車の運転に従事し、同年八月末日右会社の労働争議に関連して同会社を解雇せられ、解雇の効力を争う裁判の結果同年一二月頃同会社に出勤することとなつたが、同会社が大型クレーンを売却してしまつたこともあつて、大型クレーンを運転する機会もないまま昭和五一年四月六日同会社を退職した。

原告は右退職後は個人経営の加納重機に勤務することになつた。もつとも、右加納重機には小型に属する油圧式二〇屯のクレーンが一台あるのみで、運転者としても原告一人のみであり、そして原告は同所で右クレーンを運転して月額一五万円程度の収入を得て現在に至つている。

ところで、クレーンを運転するについては、身体をふん張つて右足で操作することが多く、熟練度としては、荷重の大小を右足に感知しながら微妙な操作をすることが必要とせられ、特に荷を降ろすときには右足に相当の力を要するために、シートに腰を深く入れて背もたれに背中を密着させて作業し、また、荷の上げ下げをする間はペダルを踏み続けることが多く、荷重の大きいクレーン程ブームやワイヤーロープが長いため高度の技術が要求され、大型クレーンを操作するについては、それだけに小型のクレーンに比して心身の疲労が大きく、原告は前記後遺症のため、大型クレーンを運転するだけの自信が持てない現状である。

以上の事実を認めることができ、右認定の事実に照らして、原告が大型クレーンを運転することが全く不可能ではないにしても、長時間にわたつて大型クレーンを運転することは困難であり、向後、大型クレーンの運転者として他の業者に採用されることを期待することもできないものと考えられる。

もつとも、原告本人の供述により真正に成立したものと認める甲第五ないし第八号証によると、移動式クレーンにおける吊り上げ装置のブレーキで、人力による足踏式のものにあつては、三〇キログラム以下の力量で作動するものであることが規格上定められており(昭和五一年八月五日労働省告示八一号移動式クレーン構造規格参照)、右力量は大凡一五キログラムを目安に設計されていて、右力量はクレーンの有する最大吊り上げ屯数の大小には関係のないことが認められるが、そうだからといつて、クレーンの操作上要求される技術が右屯数の大小によつて全く変りがないということにはならないし、また成立に争いのない乙第二号証によると、原告は別件である東海重量に対する未払賃金請求訴訟事件において、本件事故後の昭和四九年四月以降の賃金として、大型クレーンの乗務を前提とする超大型手当、機種別手当を請求していることが認められるけれども、右事実から原告が当時大型クレーンの運転をすることが可能であつたものということはできず、他に前記認定を覆すに足る証拠はない。

しかして、労働省労働基準局長通牒に示された労働能力喪失率に照らすと、自賠法施行令二条別表所定の後遺障害等級一二級の労働能力喪失率は一四パーセントということになるのであるが、労働能力の喪失の程度は、被害者の職業と後遺症の具体的状況により、右喪失率を斟酌しつつ、その程度を判断すべきものと解せられるところ、以上認定の事実に照らして、原告はクレーンの運転者としては一部その労働能力を失つたものであり、しかして、右能力の喪失率は一〇パーセントと認めるのが相当である。

以上認定の事実によれば、原告は前記受傷時及び症状固定時は三二歳であつたことが認められ、そしてもし原告が本件傷害を受けず健康体であつたならば、その職種に照らし右症状固定後少なくとも原告主張の一七年間は大型クレーンの運転者として前記平均収入程度の収益を挙げえたものというべきであるから、右期間中における逸先利益の現価をホフマン方式により年五分の割合による中間利得を控除して算出すると、その額は次の算式どおり金三三一万七五〇〇円となる。

228,915×12×0.1×12.0769=3,317,500円

2  慰藉料について

前記当事者間に争いのない本件事故の態様、原告の受けた傷害の部位、程度、治療の経過、後遺障害の内容、程度その他諸般の事情を考え合わせると、原告の慰藉料額は一五四万円と認めるのが相当である。

3  損益相殺について

原告が前示後遺障害に基づき自賠責保険金として金一〇四万円を受領したことは当事者間に争いがない。

4  弁護士費用について

本件事案の内容、審理の経過、認容額等に照らすと、原告が被告に対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は金二九万円とするのが相当である。

三  よつて、被告に対し本件事故に基づく損害の賠償を求める原告の本訴請求は差引合計金四一〇万七五〇〇円及びこれに対する本件事故発生の日である昭和四八年一二月四日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるのでこれを認容し、その余は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 白川芳澄)

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